三角法の定理
三角法の定理
子供の頃、父親が私に話してくれたことがある。「三角法の定理」によって、人間の不運が決定されるのだと言う。すなわち、「義理をかく、人情をかく、恥をかく」の「三カク」がそれだ。
貧乏すれば、この三カクに捕まってしまう。あるいはまた、この三カクを図々しく行なっていると、貧乏してしまうと言う。逆も真なりだ。いずれにしても、人に迷惑をかけ、しかも自分も苦しい思いをするのだから、手に負えない。
ところが、この苦しみの中に居ながら、案外平気で世渡りしている輩も居る。借金の返す約束の日を平気ですっぽらかす手合いがそうだ。時間に遅れたり、ドタキャン(直前で約束を違えること)などは日常茶飯事である。
つまり、三角法の定理に捕まりながら、てんで平気という面の皮の厚い奴も居て、結構、金儲けもしているのである。私の母親は、こう言ったことがある。「娑婆中は騙しきれない」と・・・。
これでは、貧乏のための定理にならないではないか、と思っていたら、これらの輩には、たとえ貧乏にならなくても、何か他の災難や不運がしきりと訪れるのである。いわゆる、天誅というやつだ。あるいは、天網カイカイという類いか。
長い間、人の世の移り変わりを観察していると、そういうことに気がついてきた。例えば、不治の病いにかかる。配偶者と争い、離婚させられる。等々いろいろある。
それが、どうも、三カクの全部ではなくても、その内の一カクでも、二カクでも、長い間、人に迷惑を与えていると、これらの不運、悲運、衰運に襲われるようである。恐るべきは、三角法の定理ではないか。